トイレの個室

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蝋人形に一目惚れしかけた

とある博物館に入って最初の展示で思わず足を止めた。それは氷河期の人々の生活を模型で再現するもので、精巧な蝋人形の顔に目が釘付けになった。

顔が良い…

特別美形にできているわけではない、どこかで見たことがありそうで初めて見る顔から視線を外せずにいた。遠い昔でその人がどのように生きていたのか、何を思っていたのか、それまで考えたこともなかったことを考えたくなった(そこにいる"人"は生きたことなどないのに)。

数秒間眺めて私の中に生まれた好奇心が恋心に変わろうとしたとき、自分が人間であることを思い出してそれを諦めることができた。

 

他人の身体に対して普段は興味と恐怖を同時に感じる。それが動かない人形となると恐ろしさは一切なく、棺の窓から故人の顔を見るような安心感があった。魂のない身体は私の何をも脅かさない。

人形が私を見ることはない。

私が人形に見られることもない。